大分カイコウ OITAKAIKOU

REPORT

Case

2020.03.10

【大分カイコウCase】生産者と消費者の新しい関係性を考える<屋形島後藤緋扇貝後藤猛氏×イナテロワ唐沢基伸氏>

<大分県最南端に浮かぶ離島「屋形島」>

大分県の南部に位置する佐伯市には、屋形島(やかたじま)という離島がある。人口十数名の小さな島だ。屋形島では『緋扇貝』と呼ばれる二枚貝の養殖が主要な産業となっている。
今回は、この屋形島で緋扇貝を養殖する2代目代表後藤猛氏の、大分カイコウを起点に生まれた出会いを追っていく。

いいい

<世界を周ってたどり着いたのが地元屋形島>

屋形島で後藤緋扇貝の2代目代表を務める後藤猛氏は、島を出ていくつかの職を経た後、インドを中心に世界を周り、最終的にたどり着いたのが自分の地元屋形島であったと言う。世界を見て周った結果、水が際限なく湧き出し、その山の養分が流れ込む海からは美味しい海の幸がとれる、、、そんな豊かな環境は当たり前ではなく、奇跡的な環境だったんだ、ということに気づき、屋形島に戻り、父親が始め出した緋扇貝の養殖事業を手伝うようになる。
今では、2代目代表として大分を代表する緋扇貝生産者となり、地元の道の駅や日本各地のレストランなどへ出荷を行っている。

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<大分カイコウでイナテロワ唐沢氏と遭遇>

一方、長野県に本拠地を置きつつも東京を中心に、日本全国、さらには世界規模で飲食業界に携わってきた方がイナテロワ社代表唐沢基伸氏である。
唐沢氏は大阪で『La Cime』というミシュラン2つ星のフレンチレストランを経営するかたわら、全国120店舗展開の居酒屋の仕入れ・購買担当や、ラーメンチェーンの海外出店担当としてなど、飲食業界において唯一無二の存在と言える。

「消費者が生産者を選ぶ時代は終わった」
「生産者から選ばれる消費者・飲食店になりたい」

という想いを持っていたところ、大分カイコウで「食」をテーマにした回の登壇ゲストとして声がかかり、そこで後藤氏と邂逅することとなった。

近年の唐沢氏の方針として、目立つもの、わかりやすく人気のでそうなものなど、次から次へ流れ込んでくる新しい情報を意図的に避けているという。
そんな中で、もし価値あるものを確実に生産している生産者と運命的な出会いで繋がることがあるなら、その出会いを大切に「いかにすればその生産者に消費者として選んでもらうことができるのか」という観点でじっくりと関係性を構築していく。

この消費者優位から生産者優位への視点の切り替えは、モノが溢れていた時代から、いつ何どき突発的な天災などで生産量が激減するかもわからない時代を、飲食業界の中で生き残っていくための重要な課題であると考える。
生産量が減ってしまったとき、優先的にモノを届けたくなるのは、自分のことをそれまで大切にしてくれた人、というのが人の真理だからである。

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<生産者と消費者の新しい関係性の始まり>

闇雲に生産量を増やし、大量に販売していくスタイルを選択するのではなく、緋扇貝一つの価値を高めようと経営努力を続けてきた後藤氏と、良い生産者に選ばれる消費者になっていきたいという考えを持つ唐沢氏とが大分カイコウを起点として邂逅したことは、「生産者」と「消費者」の新しい関係性の始まりを象徴しているかのようだ。

後藤氏も警笛を鳴らすが、消費者に買ってもらいやすいように、競合よりも自分のところを買ってもらえるように、と価格競争に陥り、生産者が疲弊してしまい、次の世代が継ごうにも事業として産業として魅力的に映らないのが今の一次産業である。

唐沢氏としても、飲食業側の立場で価格競争の土俵に上がるのではなく、顧客に「高い」と感じさせない方法を模索し、生産者と飲食店とがタッグを組んで共存していく関係性を強固にしていきたいと言う。

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<例えば、離島『屋形島』の離島を東京に>

冗談半分な話しではあったが、半ば本気で唐沢氏が話していたのは、離島である屋形島の方を”本島”とみなし、屋形島の離島的なポジションとしてのお店を東京や大阪に作りたい、というアイデアであった。東京など都市部にいながら、遠く離れた屋形島と繋がり、そこから定期的に届く緋扇貝を刺身や酒蒸しにして食べる体験ができるお店である。

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おもしろい生産者との偶然の出会いから数字を作っていくのが僕の仕事」

と取材日当日、ハワイへ出店支援の出張中であった唐沢氏は言う。

「大分カイコウだと、東京とかに行かなければ会えないような人たちに大分で会えることが嬉しい」

と、屋形島で今日も丁寧に貝を磨く後藤氏が返す。

今後も大分カイコウは、ミツバチのように花粉を運ぶ役を担い、人を繋ぐこと次々に新しい価値が生まれることを支援していきたい。
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